うなぎの蒲焼きずいぶん長いこと食べてない うなぎをめぐる問題には根深いものがあるのよ

今日、フリーライター鈴木智彦さんの記事が配信されました。
この方の著作「サカナとヤクザ」を読んで以来のファンなのです。

鈴木氏の本業はヤクザや反社会勢力へのルポライトで、実際に潜入してのスタイルを貫いています。
この本はウナギ密漁や密輸の現場だけでなく、日本の漁業に必要悪となっている闇の部分を知るにはうってつけであり、釣りや魚が好きな方には興味深い内容なのでお勧めです。

最近になって加筆された文庫版が出版されたそうなので読んでみたいと思っているところです。

今回の記事についての特別な感想はさておき、記事後の一般の人からのコメントが興味深いのであって、こちらを読んでの感想を述べたいと思います。

まず気になるのが「うなぎを食べるのは専門店にするべきだ」という意見です。
最近では牛丼チェーンなどで比較的廉価でウナギを食べることができるようです。

流通しているウナギのほとんどが、養殖ウナギであることは皆さんご存知かと思います。
養殖ウナギはシラスウナギを採捕して育てたものですが、問題はシラスウナギの出所です。

一旦養殖池に入ってしまったらそれは正規のルートで仕入れたものなのか、それとも闇ルートであるのか全くわからなくなってしまうわけです。

ですのでうなぎ専門店で提供されるウナギだからといって、必ずしも密漁密輸などの違法行為を経ていない正規ルートのうなぎである確証は全くないわけです。

IUU漁業といってillegal(違法)  unregulated(無規制)  unreported(無報告)をまとめて指す言葉ですが、シラスウナギの採捕から養殖池の池入れまでの過程にはこの3要素すべてが含まれています。

illegal違法はまずシラスウナギの密漁であり、密輸です。
日本のシラスウナギの輸入元は主に香港からとなっていますが、香港にシラスウナギが遡上する河川はなく、殆どが輸出の禁止されている台湾産を密輸したものだというのは公然の秘です。

unregulated無規制ですが、日本、台湾、韓国、中国の4国間協議でシラスウナギの採捕量合計が79トンと決められていますが、この数字は実際の資源量に対してあまりにも過大であることで実質的に獲り放題であり、まず全く規制にはなっていない事実があります。
また、この4か国で採れるウナギはすべてジャポニカ種です。中国産のウナギは別の種ではありません。

日本での養殖はハウス加温といって水温を上げ、エサを与え続けることで出荷が可能なサイズまで数か月間で育てるのです。期間が短くまた日本の蒲焼サイズに見合うように育てるのでそれほどサイズは大きくなく肉質は柔らかいと考えられます。

一方で中国は広大な土地を活かして養殖池で2~3年かけて大きくするので、サイズが大きい分だけ皮の厚みがあることで食感が悪くなるのかもしれませんが、天然ウナギに近い育ち方であるので一概に悪いとは言えないそうです。

また本年度、中国が自国の制限量を大幅に上回ってシラスウナギを採捕しているらしく、こういった情報は養殖に用いられるエサの輸出入量などから発覚するそうです。

unreported無報告は水産庁に届け出られた養殖池へのシラス池入れ量と各都府県のシラスウナギ採捕量合計に大きなずれが生じていることです。

記事中の早稲田大学真田准教授の指摘もある通り、一部の県において闇ルートでのシラスウナギの買取価格が正規ルートより高く売れることで、職漁者が裏仲買人に売ることが起こりがちであり、各地域で実際の採捕量がきちんと報告されないことで資源管理を行う際に基となるデータを把握することが困難になっています。

統計を元に計算すると2018年度はIUU漁業由来のウナギが85%だとする真田准教授の報告がありました。真田先生のウナギに関する問題点解説はこちら。

ですのでIUU漁業由来のシラスウナギの撲滅を図らない限り、私たちは知らない間に違法由来のうなぎを口にしている可能性が高いわけであり、提供をうなぎ専門店に限定すれば済む話ではないのです。

もう一つ気になるのは完全養殖ウナギの登場が待たれる、という意見です。

ウナギの生態はまだ謎の部分が多く、淡水域で数年間過ごした後に降海しての産卵はマリアナ海溝付近で行われるとされています。情報元 「結局ウナギは食べていいのか問題」 海部健三著

産卵行動で降海するウナギを銀化ウナギと言いますが、河口付近では精巣卵巣は未発達であり、マリアナ海溝に至るまでに成熟に向かうとされていますので、完全養殖はウナギにホルモン剤を注射するなどして成熟させるところから始まります。

最終的にシラスウナギのサイズに育つのは孵化する個体のうちの1%に満たないそうで、研究は進みつつあるようですが、商業ベースまでの道のりはまだまだ遠い状態です。

また完全養殖は、シラスウナギを採捕して育てる従来型の養殖には今後も費用対効果の面で遠く及ばないのではないかと言われています。

卵から孵化した幼体が、マリアナ海溝から潮にのって日本沿岸に来るまで150-200日程度かかると言われており、養殖での採卵から受精孵化してシラスのサイズに育つまでだけで150日かかるとしたら、シラスウナギを採捕して育てる方がよほど手間がかからないのは明白でしょう。

結局のところ、養殖は万能ではないのです。
他の魚種についても養殖はあまり増やすべきではありませんし、養殖を行う環境への許容量や限界はあるでしょう。

養殖に必要なエサの量は魚種ごとに違いますが、実際の漁獲量に対して何倍ものエサが必要であること、また水が魚の糞や食べ残しで汚れるのを避けることは出来ません。
ノルウェーではフィヨルド内でサーモン養殖を行っていますが、同じ場所で獲れるエビの水揚げが水質悪化で下降したため、サーモン養殖を増やすことをとりやめたそうです。

日本において今後はウナギの資源回復を図るため、生息域である河川での不要なダム、段差工、堰などを人の生活に支障がないようバランスをとりながら撤去を考えるべきです。

ウナギ、そしてサケですね。この2魚種の資源回復がきちんと図られたならば、アユやサクラマス、サツキマスなどに限らず河川と海を往来する多くの魚介は復活するのではないでしょうか。

完全養殖のウナギを考える前に、天然ウナギをどう増やすかをまず考えるべきであり、生息域の河川環境を目の前にする機会が普通の人よりも多い釣り人は、対象魚がバスなど外来魚であってもぜひ、ウナギを通した淡水域の自然環境回復を考えてみてほしいです。

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